(9) ビタミンB1・B2・B6・B12・C、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンの分子レベルでの生体への必要性
  ビタミンB1・B2・B6・B12・C、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンは、いずれも水溶性ビタミンに属する小型の有機分子である。高等生物はそれらを合成する能力を失っていて、食物として少量摂取しなければならない。
ビタミンB1(チアミン)
 補酵素であるチアミンピロリン酸(TPP)の誘導体。神経と心臓血管系に異常を引き起こす脚気は、ビタミンB1欠乏症であり、四肢の痛み・筋肉組織の脆弱さ・皮膚感覚のひずみなどの症状を示す。
 TPPは3つの重要な酵素−ピルビン酸脱水素酵素α‐ケトグルタル酸脱水素酵素トランスケトラーゼ−の補欠分子族である。TPPを利用する酵素反応に共通する特徴は、活性型アルデヒド部分の転移である。
 ※補欠分子族…酵素や他のタンパク質が生理機能を発揮するために必要不可欠な強力な非ポリペプチド結合のこと。ミオグロビンやヘモグロビンに対するヘムが最も特徴的な例。
 ピルビン酸脱水素酵素複合体は、ピルビン酸からアセチルCoAを生成する酸化的脱炭酸反応(解糖系の最終産物であるピルビン酸をクエン酸回路へ不可逆的に送り込む反応)を触媒する。
   ピルビン酸 + CoA + NAD+ ―→ アセチルCoA + CO2 + NADH
 α‐ケトグルタル酸脱水素酵素複合体は、クエン酸回路内におけるα‐ケトグルタル酸の酸化的脱炭酸反応を触媒する。
   α‐ケトグルタル酸 + CoA + NAD+ ―→ スクニシルCoA + CO2 + NADH
 トランスケトラーゼは、糖から糖へ2炭素単位を転移する酵素で、3炭素単位を転移するトランスアルドラーゼとともに、以下の3つの反応を触媒して、ペントースリン酸回路と解糖系との間に可逆的な連結を作り出す。なお、2個または3個の炭素単位を供与する糖は常にケトースであり、受容体は常にアルドースである。
ペントースリン酸回路
ビタミンB2(リボフラビン)
 フラビンタンパクの補欠分子族として働く補酵素であるFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)とFMN(フラビンモノヌクレオチド)の前駆物質。また、FAD・FMNはともに電子を2個受け取ることができ(その際プロトンも2個受け取る)、それぞれ還元型のFADH2・FMNH2を生成するため、NAD+とともに生体内の燃料分子の酸化反応における主要な電子伝達体となっている。

ビタミンB6(ピリドキシン・ピリドキサール・ピリドキサミン)
 補酵素であるピリドキサールリン酸の誘導体。ピリドキサールリン酸は、アミノ基転移反応・脱炭酸反応・ラセミ化(光学異性体であるL体からD体への異性化)反応において、基質アミノ酸のシッフ塩基を形成する。
 ※シッフ塩基…第1級アミンがアルデヒドやケトンと反応する際に生じるイミン(-N+H=C=)。

ビタミンB12(コバラミン)
 コバミド補酵素の前駆体。コバラミンの核部分は、中心に1個のコバルト原子をもつコリン環からなる。コバルト原子は、4つのピロールの窒素原子に結合している。コバラミンのコバルト原子は、+1、+2、+3の酸化状態をとりうる。Co+はATPの5'炭素原子を攻撃し、三リン酸残基を置換して、5'-デオキシアデノシルコバラミン補酵素B12)を生成する。この化合物は、生体内で唯一知られる炭素‐金属結合をもっている。
 ※ピロール環…活性化された金属原子を含む多くの重要な生体内の色素・構造体に見られる環状構造。
 コバラミン酵素は3種の反応を触媒する。@分子内の配置変え、Aメチオニン合成に見られるようなメチル化、Bリボヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドへの還元である。哺乳類で補酵素B12を必要とする反応は、非極性アミノ酸分解で見られるL-メチルマロニルCoAのスクシニルCoAへの変換(分子内の配置変え)と、ホモシステインのメチル化によるメチオニン生成のみである。
 コバラミンが関連した代謝疾患には、悪性貧血メチルマロン酸尿症などがある。これらの詳細については、前期分(21)参照。

ビタミンC(アスコルビン酸)
 アスコルビン酸のイオン化した形であるアスコルビン酸塩は、還元剤(抗酸化剤)として働く。
 結合組織の主要なタンパクであるコラーゲンの3重らせん構造には、他ではめったに見られないアミノ酸の1種である4‐ヒドロキシプロリンが存在する。このめずらしいアミノ酸は次のように作られる。できたばかりのコラーゲン鎖にあるグリシン残基のアミノ基側のプロリン残基の4位の炭素に、O2由来の酸素原子が連結する。O2のもう1つの酸素原子は、α-ケトグルタル酸に取り込まれ、これがコハク酸に変換される。この複雑な反応は、Fe2+が固く結合したプロリン水酸化酵素(2原子酸素添加酵素の1種)によって触媒される。この酵素はまた、プロリンのヒドロキシル化なしにα-ケトグルタル酸をコハク酸に変換するが、この部分的な反応ではプロリン水酸化酵素が不活化される。ここで、活性型のプロリン水酸化酵素を再生するために、アスコルビン酸(ビタミンC)が特異的な抗酸化剤として働くのである。
 霊長類やモルモットはアスコルビン酸を生合成することはできないので、食物から摂取しなければならない。アスコルビン酸欠乏症には、壊血病がある。ヒドロキシプロリンが、鎖間に水素結合をつくコラーゲンの3重らせんを安定化させるため、生体内でアスコルビン酸のない条件下で合成されたコラーゲンは、正常なものに比べて融点が低い。そのため、ヒドロキシル化が不十分だと、そうしたコラーゲンによって異常な繊維がつくられ、皮膚の病変や血管のもろさが露呈するようになる。ひどい場合には、足で立つことさえできなくなるという。

ナイアシン(ニコチン酸)
 補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の誘導体。NAD+合成は、ニコチン酸とPRPPからのニコチン酸リボヌクレオチドの形成と、ATPからのリン酸基の転移、グルタミンのアミド基の転移の3段階からなる。NAD+は、ADP-リボース供与体や種々の脱水素酵素の基質として働くほか、還元されてNADHとなり、電子伝達系における電子の転移を仲介する。
 ニコチン酸はトリプトファンからつくられる。食物からのトリプトファン供給が十分な場合、ヒトは必要量のニコチン酸を合成することができるが、食物からのトリプトファン摂取量が少ない場合は、外からのニコチン酸の供給が必要になる。食物からのトリプトファンとニコチン酸の供給が不足すると、皮膚炎や下痢、痴呆などを症状とするペラグラという病気を引き起こす。

パントテン酸
 補酵素A(CoA)の成分の1つ。CoAは、反応部位であるSH基を含むβ‐メルカプトエチルエミン部分とパントテン酸部分、ADP部分からなる。アシル基はチオエステル結合でCoAに連結し、その結果できた誘導体をアシルCoAとよび、生体内においてアシル基を運ぶ活性化担体として働く。CoAに結合しているアシル基としてはアセチル基が多く、その場合、この誘導体をアセチルCoAという。

葉酸
 テトラヒドロ葉酸の前駆体。テトラヒドロ葉酸誘導体は、いろいろな生合成反応における1炭素構造供与体として働く。メチオニンのメチル基やプリン誘導体のいくつかの炭素原子(前期分(22)参照)、ピリミジン誘導体であるチミンのメチル基(前期分(22)参照)などは、いずれもテトラヒドロ葉酸の誘導体に由来するものである。また、テトラヒドロ葉酸自体は分解反応における1炭素構造の受容体としても働く。

ビオチン
 カルボキシラーゼに結合し、CO2を運ぶ補欠分子族として働く。中でもアセチルCoAカルボキシラーゼの補欠分子族として、アセチルCoAにカルボキシル基を転移し、脂肪酸合成に不可欠なマロニルCoAを生成する反応は重要である。